故人を悼む形、もっと自由にもっとお洒落に

カクテルハットやフォーマルハット(トークハット=ツバのない小さな円形の帽子)をいつ付けるのかについて聞かれることが多々あります。結婚式やお葬式の場で付けるイメージが強いですが、私自身はカジュアルダウンしたデザインのものをパーティーの時に付けたり、ちょっと気分を上げたいときに付けてみたりと、楽しんでいます。

今回は、ある方からブラックフォーマルハットを作ってほしいとのご相談を頂いたのを機に、悲しみの席で付けるブラックフォーマルハットについて書いてみたいと思います。


西洋の映画の中で、告別式に未亡人がベール付きのブラックフォーマルハットを付けているシーンを観ることがありますね。未亡人の悲しみをたたえた表情がベールの奥で強調されて、ひときわ美しく感じます。

実際に私が参列したことのある告別式でも、未亡人となりブラックフォーマルハットを付けた友人の姿に、アッ!と声をあげてしまいそうになるほど『美しい!』と感じた経験があります。彼女の被る”ベールの付いた黒く小さなハット”こそが、彼女の凛とした姿の中にある悲しみと、最愛の人の死を受け入れる覚悟の象徴なのだと伝わってきて、胸が締め付けられたのを覚えています。

本当の美しさとは覚悟からくるものなのかもしれません。


話をブラックフォーマルハットはいつ付けるのか?に戻しましょう。

一般的に言われているのは、一番の悲しみの渦中にいる極近しい親族、そしてキリスト教徒(カトリック)が被るものとされています。一般の参列者にとっては故人を悼むことが一番の場ですので、あくまでも控えめで目立たない格好であることが望ましいとされています。従って、ファッションの延長線上的感覚で、参列者がブラックフォーマルハットを付けるのは失礼に当たることになります。


ただ、時代の流れと共に、マナーや人の価値観は変わっていくもの。


近年では、大々的な葬儀は行わず、家族葬や極身近な方だけで執り行う式や、お通夜は行わず告別式だけの葬儀という形も増えてきたようです。

そして、コロナ禍によって、遠方との行き来がしにくくなり、人が集まることさえもできにくくなっている中で、葬儀の形も、葬儀への思いも、そしてマナーも変わってきているように感じます。

そんなこともあって、ブラックフォーマルハットについて質問されるたびに、昔からあるマナーはともかく、実際のところはどうなんだろう?と、私自身確かめたくなったのです。


そこで、直接現場の方にお聞きするために、近隣の葬儀場何軒かに直撃取材することにしました。

思い立ったら!という事で、アポなしで葬儀場のドアを開けるのは相当勇気がいりましたが、皆さんお忙しいにもかかわらず、とても親切に対応してくださいました。本当にありがとうございました。


まず、現状として、帽子を被っている方はほとんどいらっしゃらないとの事。
男性の場合は被ってこられても式場に入られた時点で脱がれる。女性も同様で、ツバありの帽子を被ってこられた方は脱がれるとのこと。
そして、ブラックフォーマルハットを付けた方を見かけたことはない、というのが共通のお話でした。(お聞きした中には、服装にまで注目していないのでよく覚えていないとの回答も。今回はお伺いした数が少なかったことと地域性もあると思いますが、ゼロという数字は私としては残念な結果でした。)

しかし、葬儀に関する考え方が昔とはだいぶ変わってきていると現場の方も肌で感じていらっしゃる様子。
若い方がマナーを知らないのはもちろんのこと、マナーを重視する昔の方も少なくなり、だからと言って葬儀場としてもマナーを押し付けるようなことはしないとのこと。ただし、お寺からお坊さんを呼ばれる場合は、そのお坊さんによって一言ある場合もあるかもしれない、とのことでした。

そして、世の中の色々な場面で多様性が広がっているように、お送りする気持ちや形にも、もっと多様性があってもいいのではというご意見も。

例えば、家族葬や小さな葬儀。

家族葬や気心知れた少人数での葬儀が増え、平服での参列を求める式も増えているそうです。そんな時こそもう少しおしゃれをして、故人を送る気持ちを服装に表現してもいいのではないか、という提案もいただきました。

まだまだ横並びを求める日本人とはいえ、急速に色々な価値観が変わって多様になっていく中で、親しい方とのお別れの形もこの先どんどん変わっていくのかもしれません。


取材させていただいた中のお一人、株式会社板橋・大船ほうさい殿の北野副支社長のお言葉が、これからのお別れの場の形が開かれた方向に導いてくれるように感じました。

『故人を悼む気持ちさえあれば、お送りする形にもっと多様性があってもいい。装いも華美になる必要はないけれど、映画に出てくるブラックフォーマルハットを付けた女性のように、もっとお洒落で自由であってもいいと思いますよ。』

華美ではないけれど美しいクリスマスローズの花。



話は冒頭に戻って、ブラックフォーマルハットを作ってほしいとのご相談頂いた方のお話。

その方はご高齢のお母様の面倒を付きっきりで見ておられる方で、お母様への接し方はそれはそれは愛情に満ちていて、頭が下がる思いがするほど。痛いほどにお母様を大切に思われている気持ちが伝わってきます。

でも、お別れするときは必ず来るもの。それは突然かもしれません。
だからこそ、もう遠くないかもしれないその時のために、少しずつ心の準備をするためにも、ブラックフォーマルハットを作っておきたいと思われたとのこと。この方にとっても、ブラックフォーマルハットは覚悟の形なのかもしれません。




★ブラックフォーマルハットの一般的なマナーと私の考えについて、もうかれこれ10年ほど前に書いたブログです。
併せてお読みいただけると嬉しいです。

参考:女性のためのお葬式のマナー