夏の思い出帽子

おばあちゃんの余り布夏休みや冬休み、両親に連れられておばあちゃんの家に遊びに行くと、その日の為に用意された品々が、奥の部屋の押入れからどんどん出てくる。流行のゲームやおもちゃ、フリルいっぱいのパジャマやかわいいプリントの付いたまっさらな下着、そしてフルーツケーキやチョコレートといったお菓子まで。あの押入れが開くのを、私はあの頃どんなに楽しみにしていたことか!


そのドラえもんのポケットのような押入れの片隅に、その布箱は眠っていた。


おばあちゃんが亡くなってしばらく経ち、残された荷物を整理することになった時、その押入れを勝手に開けてはいけなかった子供だった私も、もう大人になっていた。押入れの中身も、子供をワクワクさせるような品々はもうなく、ちょっと湿り気を帯びた黴臭いような空気と共に、埃にまみれて光を失ったビニール袋や紙箱に包まれて、何だかエタイの知れないものがぎっしり詰まっていた。こうなってくると、懐かしいというよりも、ウンザリという感じである。

ひとつずつ袋や箱を開いて、もう投げ出してしまいたくなる位埃を吸い込んで、汚れた手同様、鼻の穴も真っ黒になった頃、いろんな布のハギレがいっぱい詰まった箱が出てきたのである。布団から着物まで、何でも手作りしてしまうおばあちゃんの残した布箱の中身は、見覚えのある柄と肌触りで埋め尽くされていた。今ではデッドストック入りの貴重なプリントのハギレも混じっていて、まさに私にとっては玉手箱である!

その中の一枚を使って、帽子を作ることにした。草の繊維でメッシュ状に編まれた生成りの生地をベースに、植物模様のプリントされたおばあちゃんの残したハギレを内ブリムの部分とリボンに使ったクロッシェ、名づけて「おばあちゃんの夏の思い出帽子」である。

いつもおしゃれさんで綺麗に装っていたおばあちゃんが、まだ、私のおばあちゃんになるずっと前、つまり、おばあちゃんがまだ若くて、本人いわく「ウエストが蜂のようにくびれていた」頃、そんな時代にタイムスリップできるとしたら、この帽子をおばあちゃんにプレゼントしたいなぁ。モボやモガが流行ったあの時代。きっと“うちのモダンガール”に似合うにちがいない!(^^)

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かとうひろみ
かとうひろみ
北鎌倉とスナフキンが大好きな帽子屋です。

夏の思い出帽子”へ2件のコメント

  1. acchi より:

    素敵な帽子だなぁと思って。
    ついつい最後まで読んじゃいました。読み終えたらレスしたくなって・・初めまして。
    また遊びに来ます。ありがとう。

  2. yotsuba より:

    はじめまして。以前から素敵な帽子の数々を憧れを持って拝見させていただいておりました。
    今回、なんだか読んでて自分の思い出とだぶるものがありまして・・・コメント入れさせていただきました。
    思わず私も今は亡き祖母のこよ、祖母の作ってくれたリカちゃんの布団やセーターとかを思い出しちゃいました。
    私の場合、玉手箱は残されていないけど、温かな思い出はしっかり残っています。
    これからおばあさまの残してくださった玉手箱から、いろいろな作品が生まれるのでしょうね。今後も楽しみにしてますね!

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