あなたの心模様、映します!
ジャワ島の伝統芸能である影絵芝居「ワヤン」を大人になるまでこの目で観たことはなかったけれど、その芝居で使われる透かし彫りの人形は、小さい頃から知っていた。海外出張の度に父が持ち帰る、なんともへんてこりんな品々の中のひとつとして、部屋に飾られていたのである。
ギョロリとした目が不思議な魅力の横顔と、異常に細長い手足のついた体。過美な衣装や装飾品を身にまとった人形は、影絵の為の人形なのに、金銀色がふんだんに使われた過剰な程に美しい彩色がされたものだった。
実のところ私は・・・
つい最近まで、あの人形はお土産用に作られたチープな飾り物だとばかり思っていた。ジャワ島を訪れた外国人が喜ぶように過剰に装飾されたおもちゃのような代物だと。日本のお土産で言ったら、芸者が印刷された手鏡か、銀閣寺の浮き彫りが施された灰皿程度の代物だと思っていた。何せ、影絵なら、人形に彩色などされていなくてもいいはずなのだから。
それがである。ジャワのワヤンは、スクリーン越しに影絵としても見るけれど、反対側からも見れるということを最近知ったのである。つまり、スクリーンを背にした人形も、人形を動かしている人までも見ることが出来る芝居なのだということを。人形そのものが美しく艶やかに彩色されたものだったのは、そういうことだったのだ。
演じられるワヤンのストーリーは、宗教的だったり、哲学的だったり。この世を生きていく人々の人生に明暗があるように、登場人物の心模様を、光と影、表と裏で表した、なかなか奥の深いお芝居であるらしい。そして、登場するのは人間や動物だけでなく、それ以上の存在として風や雲や樹などの自然が、大切な意味を持つ一員として活躍するのである。
庭に咲いたシラーぺルビアーナの近くに、出来上がったばかりの帽子を置いてみた。生成り色のペーパークロスで創った、卵のようにコロンとした形のハンチングである。そうしたら、なんと、ワヤンを表から眺めたような光景が目の前に現れたのだ!スクリーンとなったハンチングの上で、風にそよぐシラーぺルビアーナは、手足の細長い人形のように揺れ動く。なんだか、ガムランの音色まで聞こえてきそうだ。
このハンチング、もしかしたら被った人の心模様まで映し出してしまうかも知れないよ。けれどそんな時は、雲や風や樹などの自然の力を借りよう!きっと、影を作って隠してくれるか、吹き飛ばしてくれるに違いない。
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