ねえ、みんなで被ろうよ!

ドン・ホセ

ドン・ホセは自分が被っていた衛兵帽を頭から剥ぎ取りギュ

ッと握り締める。その帽子をカルメンはドン・ホセの手から奪

い取りヒステリックに地面に叩きつける。ドン・ホセは紙屑の

ようにくしゃくしゃになった帽子を拾い上げ自分の胸に強く

押し付ける・・・。

 

これは先日行われた「オペラ:カルメン」のワンシーン。

 

カルメンに心を奪われながらも、『私を愛しているなら一緒

に悪の道に入って。』という彼女の要求に苦しむまじめな衛

兵ドン・ホセ。そしてカルメンの激しい駆け引き。

 

なんて効果的に使われているのだろう、帽子が!!

原語で歌われる台詞がわからなくとも、演者の声色や表情

そして動きで今何が起きているのかは想像つく。とは言え、

帽子という小道具がこれほどまでに登場人物の心を表現す

るとは!

“ボウシスト”を自認する私も改めて帽子の力を思い知る。

 

さてこの「オペラ」、東京にレストランを持つ方のご自宅を会

場にして行われた公演である。場所は北鎌倉、高台の一角

にあるご自宅。ワンルームマンションの一部屋くらいある玄

関を通ると、グランドピアノの置かれた客間、そしてサンル

ームへと続く。そこに60名ほどの観客が入り、オペラを鑑

賞し幕間に食事を堪能するというセレブ感いっぱいの催し。

 

帽子のお客様からお誘いを受けご一緒させていただくこと

になったものの、一般庶民である私はいったい何を着てい

けばいいのやら迷いに迷う。結局当日の朝まで迷った末、

服はシンプルに、髪をアップして黒のベルベットに青い羽の

付いたいつものカクテルハットを頭にのせることにした。

 

会場であるそのお宅は、実は私の住む家から地図上では

歩くことも可能な場所なのだけれど、スニーカー履いてひと

山越えることになる。この格好でハイキングもないだろうし、

バスでも電車でもかえって遠回りになってしまう場所なこと

もあって、通りに出て手を上げてタクシーを拾う。

 

・・・なんだか盛り上がってきた!

先日薦められてみたDVD 「sex
and the city」のワンシーン

のようだ。ブランド物の洋服を身にまといおしゃれに決めた

サラが、セレブなパーティーに駆けつけるためにNYのスト

リートでタクシーを停める・・・そんな感じ。

私の場合はブランド物の洋服ではないけれど、カクテルハ

ットを付けているというだけで、気分が盛り上がってくるので

ある。

 

カルメン






ドン・ホセの衛兵帽が彼の仕事や社会への忠誠心の印で

あったように、マントを頬かむりしていたジプシーのカルメン

が、闘牛士のエスカミーリョの恋人となってからは赤いティ

アラと大輪のバラの髪飾りをつけ、それこそが彼女が華や

かな世界に身を置いた証であった。

 

さて、この公演の観客はどんな格好をしていらしたのか?と

いうと、千差万別。スニーカーにリュックの方もいれば、ドレ

スアップして演者と見間違えるほどの華やかな方も、そして

着物の方もちらほら。

 

でも、会場内で帽子を被っていたのは、ドン・ホセと私だけ。

ヘッドアクセサリーということでいえばカルメンも入れてあげ

よう。そう、たったの3人だけ。いや、観客でいえば私だけ。

 

ああもったいない!

カクテルハットを被る楽しさを知ったら、もう、やめられませ

んよ~(^^)

ねえ、みんなで被ろうよ!

 

 

(注)“ボウシスト”とは帽子を愛し操る人を指す。鎌倉のカ

フェ「エチカ」のマスターの造語を拝借。

 

(写真:ピント合ってなくてごめんなさい)

     
ドン・ホセ役の大川信之さん

     
カルメン役の田辺いづみさん