いつかまた会える

DC0139


私の帽子を愛してくれたあの方の突然の訃報に、哀し


みを感じる間もなくお別れのための身支度を急ぐ。


きちんとした喪服を持ち合わせていない私は手持ちの


黒い服をかき集め、頭には黒い帽子を被って家を出た。


 


この黒い帽子、数日前に完成したばかりのもの。小さく


なったベレーのヘッドサイズ部分を伸ばし、ボアの生


地で作ったバイヤステープと壊れたブーツの飾りベル


トでトリミングした、リメイクもの。ベレーとトークの中間


のような形が気に入って、色々なシーンで活躍しそうな


帽子が出来たと自画自賛していたとはいえ、まさか哀


しみの席がデビューになるとは思ってもいなかった。


 


西洋の映画では、教会やレストランの中などでも帽子


を被ったままの女性の姿があたりまえなように、基本


的に女性はどのようなときでも帽子を取らなくても良い


という。つばが広すぎて周りの人の邪魔になるような


場合は別として。しかし、このマナーはあくまでも西洋


のもの。帽子の歴史が浅い日本人に浸透しているとは


言いがたい。


 


結局私は式の最中には帽子を脱いだけれど、帽子好


きのあの方は私が帽子を被ったままでいても咎めるこ


とはなかっただろう。ただ、和を尊ぶ方たちが多い今回


の式で、波風立てなくても良いだろうと判断したから脱


いだまでのこと。大切な方とのお別れの席で、無駄に


人々の神経を逆なでするようなことはしたくなかっただ


けである。


 


頭の小さかったあの方の帽子は、この世に残されても


行き場がないと、主と一緒に棺の中に収められた。


いつも被ってくださった私が創ったハンチング。


天国でも被ってくれるだろうか。


 


* * * * * * * * * * * * *


 


あの方と私、並んでお散歩している姿がふと浮かぶ。


頭にはもちろん2人とも帽子。


なんだか、いつかまた会える気がしてきた・・・!

投稿者プロフィール

かとうひろみ
かとうひろみ
北鎌倉とスナフキンが大好きな帽子屋です。

前の記事

記念日は印象深く

次の記事

赤い実