起上り小帽子

菜ちゃん帽

「自画自賛、自己満足で突っ走ろう!」と始まった新年も、あっという間に「世の中そんなに甘くないよ」と、現実を見せ付けられることになる。自分では気に入った仕上がりの帽子でも、被って下さるご本人に気に入ってもらえなければ意味はないのだ。特に、それがオーダー頂いたものだった場合。


 


私が帽子のオーダーを頂く時、出来る限り直接お会いして、お話して、私がすでに創った帽子たちの写真などを見ていただいた上で、気に入って下さった方からお受けするようにしている。そして、どんな時に被りたいかと大体の色や素材・形の希望をお聞きして、頭のサイズを採寸させて頂いたあとは、お任せにさせて頂いている。そうしないと、私自身楽しくないのだ。ワクワクドキドキしながら創らないと、被ってくださった方の笑顔がこぼれるような帽子にはならないと、私は思うのだ。


 


だから私は、その方にお会いしている時も、デザインを考えている時も、生地を選んでいる時も、五感だけでなく第六感まで総動員して、その方が帽子を被ってニッコリしている姿を思い浮かべる。笑顔の上にどんな帽子が載っているのか、はっきり見えてくるまで。そしてその姿がはっきり見えたのなら、後はひたすら手を動かして帽子を形創っていく。・・・なんてワクワクドキドキする作業なのだろう!


 


しかし、このやり方は、とってもリスキーでもあるのだ。もし、私にイメージした形がお客様の琴線に触れた場合はとても喜んでもらえるけれど、イメージがどうしても沸かなかったり、的を外してしまった場合、お客様に満足してもらえないどころか、その帽子は二度と被ってもらえない可能性もあるのだから。


 


昨年の事、女子高校生になるお孫さんへのクリスマスプレゼントにと、あるおばあさまからご注文を頂いた。実際にそのお嬢さんにも会って、どんな帽子が欲しいのかお聞きするチャンスも頂いた。そして、抑えた色のチェックのツイードに、爽やかな水色の皮ベルトを巻いたソフトハットを創ってお届けしたのがクリスマスイブのこと。ぎりぎりセーフ!


 


帽子を被って下さった方の笑顔が見たい私は、なるべくご本人に直接お渡しして、初めて被って頂く瞬間に立ち会いたいと思っている。しかし、その時はままならず、お預けしたままクリスマスも終わり、感想を聞くことも出来ないまま新しい年を迎えてしまった。しかし、何としてでも感想を聞きたい私は、感想を書いて頂く為のアンケートハガキを忍ばせておいた。そのハガキが返信されてきたのだ。ドキドキしながらハガキをワシッと掴んで内容に目を走らせる。


 


なんとそこには、お母様の文字でこう書かれていたのだ。


「実は、娘よりも私の方が気に入ってしまったので、母のものになってしまいました。」・・・と。


あぁ、いくら私が若ぶっても、女子高校生の気持ちや感覚は掴めなかったのだ。これが現実、今の私の実力か・・・?!


 頼んでくださったおばあさまとお嬢さんに申し訳ないと思うと同時に、一気に弱気モードに入ってしまった私。


 


しかし「被ると気分も若返り、とても嬉しいです。」と続けられたお母様の気遣い溢れる文面に救われる。こんなフィードバックは本当に有難い。弱気になった私に、帽子を創る気がまた沸き起こってくる。


 


いつかきっと、女子高校生のお嬢さんにも気に入ってもらえる帽子が創れるようになろう。その時彼女はもう高校生ではなくおばさんになっているかもしれないけれど・・・。


え?その時私はおばあちゃん?うん、それも悪くない!

起上り小帽子”へ2件のコメント

  1. にゃまにゃん より:

    素敵なお話だなぁ~って思いました。
    きっと このお嬢さん
    お母様のこと大切に思ってるんだろうなぁ♪
    だって ひろりんさんが第六感でイメージした帽子♪お母様のもとへ届いたんですものっ♪
    お嬢さんとお母様の深いつながりを感じました。
    そんなお嬢さんの気持ちをキャッチしたひろりんさんの帽子(第六感)☆って素敵ですっ♪

  2. フーテン治療師 より:

    昨夜は遅くまで高輪にて旧交を温められたこと喜んでおります。
    頭頂部が枯れススキ状態
    ひとつ機会があったらマイキャップでも
    と思っている次第。
    またの鎌倉散策にて再会期す!
    感謝!感謝!

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